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東京高等裁判所 昭和55年(行コ)57号 判決

控訴人(原告) 磐梯観光開発株式会社

被控訴人(被告) 下谷税務署長

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人が、控訴人の昭和四六年一一月一五日から昭和四七年九月三〇日までの事業年度の法人税について、昭和四八年一二月二六日付でなした更正及びこれに伴う過少申告加算税の賦課決定を取り消す。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の、事実上の主張並びに証拠の提出、援用及び認否は、証拠の援用につき、「控訴代理人は当審証人大森保の証言を援用した。」と加えるほか、原判決事実摘示(原判決二枚目―記録一九丁―表六行目から、原判決一二枚目―記録二九丁―表七行目まで。但し、原判決七枚目―記録二四丁―表末行及び原判決一〇枚目―記録二七丁―表二行目に、各「折り」とあるのを、いずれも「織り」と改める。)と同一であるからこれを引用する。

理由

一  当裁判所は、控訴人の請求を失当として棄却すべきであるとするものであつて、その事実認定及びこれに伴う判断は、次のとおり削り、加えるほか、原判決理由説示(原判決一三枚目―記録三〇丁―表二行目から、原判決一九枚目―記録三六丁―裏三、四行目「棄却することとし、」まで。但し、原判決一六枚目―記録三三丁―裏初行に「退職金額」とあるを「退職給与額」と改め、原判決一九枚目―記録三六丁―裏三、四行目に「棄却することとし、」とあるを「棄却すべきである。」と改める。)の記載と同一であるからこれを引用する。

原判決一六枚目―記録三三丁―表七行目から、原判決一七枚目―記録三四丁―表五行目及び原判決一七枚目―記録三四丁―裏三行から、原判決一八枚目―記録三五丁―裏四行目「相当である。」までを削り、その後に、行を改め、次のとおり加える。

「3 控訴人は、退職給与の支給を受けた大森、宮内、八重畑、及び坂本の各退職役員は、代表取締役大森国茂とともに、控訴人設立前五年間にわたつて、得意先の開拓、広告方法の研究等設立準備に尽力し、その結果控訴人は、設立後直ちに大きな収益をあげることができるに至つたのであり、このように、会社設立前の準備に尽力し、それが設立後の業績に大きく寄与した場合にはかかる事情を、退職給付の相当性を判断するについても考慮に入れるべきであり、仮に、相当性を判断するについて、功績倍率を用いるとしても、設立後間もない法人の場合には、設立準備前の役員の貢献度を役員報酬の中に織り込むことが不可能であるから、控訴人の場合におけると同様に、設立の日の属する事業年度において多額の利益をあげた法人の功績倍率と比較するのでなければならない旨主張する。

よつて判断するに、当審証人大森保、原審における控訴人代表者大森国茂の各供述中、控訴人の右主張に副う供述部分、すなわち控訴人代表者大森国茂は、弟である大森保のほか、宮内国男、八重畑素弘、坂本一夫らと語らつて、昭和四一年前後ころから控訴人設立の準備にとりかかり、八重畑は広告を、他の三名は買入れ物件及び販売についての情報収集、取引先開拓等営業を分担してその準備に努め、その結果、控訴人を設立して営業開始直後から順調に業績をあげることができた旨の各供述部分には、控訴人設立について、いつころからどのような計画をたてたか、各人がどのような準備行為をしたかについて、殆んど具体的な供述がなく、その供述のとおりであるとしても、大森国茂を中心として、不動産会社の設立を企図し、これを念頭に置いて行動しながらその時機をうかがつていたに過ぎず、通常、新しい会社の設立を企図する者の行動に比較して特に著しい差があるとは認め難く、退職給与額の相当性を決するについて、特に考慮しなければならない程の事情があつたものとは認められない。また、設立前の活動が、設立後の営業の業績向上に寄与したとする点についても、右各供述部分中には抽象的な供述があるのみで、何ら具体的な供述がなく、他にこれを認めるに足りる証拠はない。却つて、前掲各供述を、いずれも成立に争いがない乙第一二、第二四号証及び公文書であつて真正に成立したものと推認すべき乙第一五号証にあわせると大森国茂は、昭和四一年ころ不動産業を営む会社として設立された東京信販コーポ保証株式会社の登記簿上は代表取締役、事実上常務取締役に就任してその営業活動に従事し、約二年間勤務したのち退職給与として二〇〇〇万円の給付を受けて辞任し、新たに、加藤恵一を代表者として、不動産業を目的とする東京信販コーポ株式会社を設立して常務取締役に就任し、約一年を経過したのち同会社が倒産したため再び前記東京信販コーポ保証株式会社(当時磐梯電鉄不動産株式会社と商号を変更していた)の常務取締役に復帰して営業活動に従事し、一年余を経た昭和四六年一〇月ころ、新会社である控訴人を設立するために辞任し、その際退職給与金を要求して三五〇〇万円の給付を受けたこと、大森保も、大森国茂とともに、前記東京信販コーポ保証株式会社、東京信販コーポ株式会社、磐梯電鉄不動産株式会社を順次転職し、前二社は従業員として、磐梯電鉄不動産株式会社は役員として営業活動に従事したが、磐梯電鉄不動産株式会社の役員を辞任した際には、退職給与として五〇〇万円の給付を受けたこと、同会社では、大森国茂、大森保に対し退職給与名義で給付した金員は、実質は利益の分配であるとの認識から、経理上は、役員の退職給与としての処理をせず、税務手続上もその扱いをしなかつたこと、大森保らは、控訴人から独立した方が利益が大きいとの認識から新会社設立を企図し、控訴人の役員を辞任して磐光開発株式会社を設立したが、控訴人代表者大森国茂との間で、特段に意見の対立があつたわけでもなく、右会社設立後も、控訴人との間で、控訴人所有の不動産を、手数料を定めたうえその販売に当つていたことの各事実が認められ、前顕乙第一五号証中右認定に反する供述記載部分は採用し難く、ほかに右認定に反する証拠はない。右事実関係のもとにおいては、控訴会社の設立は、控訴人が主張するように、五年間にも及ぶ長期間において、特段の準備を尽してなされたものとは到底認め難いばかりでなく、不動産の売買により、短期間に多額の収益とその分配を企図して離合集散が繰り返され、控訴会社の設立にも右一連の離合集散のからんでいることが窺われる。」

二  よつて、原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、民訴法三八四条に従いこれを棄却すべく、控訴費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 園部秀信 村岡二郎 川上正俊)

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